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セミナー・イベント情報
第1回「学生の学びを止めないための体制整備」オンラインセミナー 基調講演
2020年9月18日(金)に実施された第1回「学生の学びを止めないための体制整備」オンラインセミナーで文部科学省の淵上 孝 様にご講演いただいた内容をまとめております。
はじめに
高等教育機関の先生方の多大なご努力で、(2020年)4月以降の緊急事態宣言が出されている中においても、オンラインでの教育が行われました。この結果、わが国では、高等教育の学びを基本的に継続させることができたと思います。
これまで経験のない状態の中、それぞれの学校で創意工夫をされたと承知しております。
この場を借りて、改めて敬意を表させていただきます。
ほぼすべての大学が何らかの形で対面授業を予定
この状況を踏まえ、文部科学省では、9月下旬から10月上旬に始まる後期授業への取り組みについて8月25日〜9月11日にかけて、短期大学を含む全国の国公私立大学、高等専門学校に調査をさせていただきました。回収率は100%で、短期間にもかかわらずすべての学校にご協力いただきました。
感染対策を講じた授業の工夫や学生への配慮の好事例を紹介
先の全国調査と並行して、50程度の大学の先生方に直接、電話・遠隔で聞き取り調査を行い、多くの好事例を伺うことができました。
対面授業の再開と感染予防を両立する取り組みの事例としては、実験・実習や実技・レッスンなどがある大学では、優先順位を設けて、対面授業を順次実施している例や、座席上の工夫を設けている例、授業クラスを分割している例、遠隔授業がメインであっても数回は対面授業を行い学生とコミュニケーションを取る機会を設けている例、1年生に対する配慮を行っている例などがあります。
学生の交流機会を増やす取り組みとしては、特に1年生に配慮している例、相談体制に工夫をしている例、また、図書館などの施設利用に関する工夫を行う例もありました。
大学等の後期授業における留意事項について周知
これらの調査結果を踏まえて9月15日付けで「大学等における本年度後期等の授業の実施と新型コロナウイルス感染症の感染防止対策について」として、通知という形でお知らせさせていただきました。
(https://www.mext.go.jp/content/20200916-mxt_kouhou01-000004520_1.pdf)
そのポイントとして、大きく3点示しております。
1つ目は後期の授業をどのように進めていくか、学校の開放をどのようにしていくかという点についてです。大学の教育においては、学生同士や教職員との人的交流も重要な要素になりますので、後期授業の実施においてはこのようなことを踏まえて実施いただきたいということと、対面による授業が著しく少ないものに関しては、その理由について丁寧に説明いただきたいということ、さらに、新入生への配慮や、メンタルケアの充実、図書館等の学内施設の利用機会の確保などについて述べています。
2つ目は感染拡大を防止するための学生・教職員への注意喚起についてです。注意喚起に関しては学生一人一人に確実に行き届く手段で行っていただきたいと述べています。
3点目は、感染リスクをゼロにすることは難しいので、感染者が出た場合、衛生主管部局との緊密な連携など、必要な対応について述べています
こちらを参考に、後期の授業や学校の開放を進めていただければと考えております。
京都大学 飯吉先生によるインタビュー
飯吉:文部科学省としては今回の調査を、今後の取り組み対してどのように生かしていくかをお聞かせください。
淵上:まずは各大学がこのような状況下においても、「学びを止めない」「質の高い教育を展開していく」ためにしっかり考えられているなということを感じました。
まずは目の前の教育の質を上げていくということで、今回の調査で好事例の話をいくつか聞くことができましたが、さらに事例をヒアリングして、積極的に展開していきたいと考えています。すでに8月の上旬に一部を文部科学省Webにアップしていますが、近々追加の情報もアップしていく予定です。
また、今後のことを考えると、全体の制度をどうしていくのかを考えていく必要があります。教育再生実行会議でもポストコロナを見据えた高等教育のあり方についての議論がスタートしましたし、飯吉先生にもご参加いただいておりますが、中央教育審議会(以下、中教審)でも新たな大学の形を踏まえた(教育の)質保証のシステムをどうしていくのかを考えていかなくてはいけないなと考えています。
飯吉:先日、萩生田文部科学大臣が対面授業の重要性を説きつつ、オンラインもしっかりやってほしいとおっしゃっていましたが、文部科学省としては、特にオンライン教育についてどういう点を配慮してほしいとお考えですか。
淵上:大学設置基準を踏まえると、オンラインにおいても対面と同等以上の質と効果を確保してほしい、というのが基本です。学生たちが疑問に思ったことや、学びを深めるための工夫も対面と同様の取組をしていただきたいと思っていますし、現にさまざまな形で行われているとも聞いています。また、オンタイム(リアルタイム)、オンデマンドそれぞれの特性がありますので、それぞれのメリット・デメリットを見極めて最適なものを選びとって行ってほしいと考えています。
飯吉:では、参加者からの質問も取り上げてみたいと思います。コロナ禍においては、大学設置基準が求める要件をすべて満たすのが困難な状況ですが、最低限これだけは満たしてほしいと考えられていることは何でしょうか。
淵上:すでに通知でお知らせしていますが、遠隔授業の60単位の制限というのはすでに外していますので、柔軟に対応いただけるかと思います。ただし、質に関してはしっかり担保していただきたいと考えております。基本は大学設置基準となりますので、それを踏まえつつ弾力的に運用していただきたいと思いますが、大学設置基準の見直しについては中教審の大学分科会において大学の先生方が議論したものがベースとなりますので、今回の経験を活かして、新しい大学設置基準をどうすべきかをしっかり議論いただければと考えています。
飯吉:今回のオンライン授業の経験を今後の対面授業にどう生かしていけばよいとお考えですか 。
淵上:今回、各大学・先生とも貴重な経験をされているかと思います。例えば、オンラインゆえに学生たちの意見が出やすかった、ということも数多く聞いています。このようにオンライン授業で得られた知見を、対面授業にどうフィードバックして行くかが重要になっていくと思います。この経験を生かすために、単純に従来の対面授業に戻すのではなく、新しい形の学びや授業のあり方を学生とも対話しながら、一緒に形作っていただければと思います。
飯吉:アフターコロナの高等教育のあり方について、最後に一言いただければと思います。
淵上:今回の経験は、大学というシステムのあり方について課題を突き付けられたと考えています。これはわが国だけでなく世界中の大学においてもです。できることであれば、わが国の大学が先生方と共に、世界に先駆けて「新しい大学の形」とはこういうものだということを示せればいいと思います。
また、学修者本位の大学のあり方、留学生や社会人などの多様な学生が学べるキャンパスづくりなど、新たなチャレンジの方向性が見えやすくなったように感じますので、ピンチをチャンスに変えて、世界に発信できるような高等教育づくりを皆さんのお知恵を拝借しながらできればいいなと考えております。
講演者
淵上 孝 様
文部科学省
高等教育局 高等教育企画課長
平成4年に入省の後、幼児教育課長、私学助成課長、教育課程課長、国立大学法人支援課長などを経て、本年8月より現職。
インタビュアー
飯吉 透先生
京都大学理事補(教育担当)
高等教育研究開発推進センター長・教授
京都大学大学院教育学研究科教授(兼任)
カーネギー財団知識メディア研究所 所長、東京大学大学院 情報学環 客員教授、
マサチューセッツ工科大学 教育イノベーション・テクノロジー局シニア・ストラテジスト等を歴任。共編著書に『ウェブで学ぶオープンエデュケーションと知の革命』(共著、筑摩書 房)、「Opening Up Education」(MIT出版)等。
※講演日:2020年9月18日(水)