前任校での経験を活かし、オンデマンド授業をデザイン
鹿児島大学でも皆さんの大学と同様に、前期は原則、全学部で遠隔授業を行う方針でスタートしました。6月には条件付きで一部の授業が対面形式となりましたが、私の受け持つ授業(※)はすべてオンデマンド型のオンライン授業で実施しました。
鹿児島大学 様
鹿児島大学
森 裕生 先生
2020年9月18日(金)に実施した第5回「私の遠隔授業」オンラインセミナーにおいて、遠隔授業の方法についてお話いただきました。
後半には京都大学の飯吉透先生によるインタビューも実施しております。
最下部に動画とPDFデータのダウンロードリンクもございますので
あわせてご覧ください。
鹿児島大学でも皆さんの大学と同様に、前期は原則、全学部で遠隔授業を行う方針でスタートしました。6月には条件付きで一部の授業が対面形式となりましたが、私の受け持つ授業(※)はすべてオンデマンド型のオンライン授業で実施しました。
私自身は鹿児島大学に来る前に、通信教育課程を持つ早稲田大学人間科学部(研究科)で学生、助手、eメンターというさまざまな立場でオンライン授業の経験があり、その時実践していたことを思い出しながら、オンデマンド授業のデザインを行いました。具体的には「学生に人気のあった授業は何だったか」「何をすると学生の取り組みが良くなるか」「どのように学生とコミュニケーションを取ったか」などの点が挙げられます。
これらを考慮し、以下の3つの点を意識して授業をデザインしました。
一つ目は「授業動画の作成」です。10〜15分の動画+関連の演習問題を1サイクルとして、これを3サイクル程度行い、1回90分の授業とする構成です。動画を作る際に工夫をしたのは、スライドだけでなく、私が話す様子などの写真や音声を入れることで学生との距離感を縮め、臨場感、存在感を出せるようにしたことです。また、開始当初はネットワーク回線の不安もあったので、できるだけ負荷をかけないように、私の顔は動画ではなく写真を使ったりもしました。
二つ目はミニッツペーパーです。これは従来の対面授業でも行っていたのですが、授業で最も重要だと思ったことや、疑問に思ったこと、その他、感想やコメントをオンラインのレポートで提出してもらうようにしていました。
三つ目は、すべての授業ごとに情報共有用の掲示板を設置したことです。質問や演習課題の回答、ミニッツペーパーの内容など、自由にコメントを投稿するように推奨しました。他の学生がどのような考え方をしているのか、というのを知ってもらうのが目的でした。任意の投稿ではありましたが、書き込みをすると加点評価するようにしていました。
※森先生の担当授業
初年次教育:論証型レポートの作成(30名程度)
共通教育科目:「大学で学ぶ」「キャリアデザイン」(200名程度)
このような基本方針でデザインをしてきたのですが、特に重視したことはフィードバックでした。少人数の初年次教育では、毎回全員のミニッツペーパーに2〜3行のコメントを書いていました。200名程度の共通教育科目では、掲示板に投稿されたもののうち、質問や、他の学生にも目を通してほしいもののみにコメントするようにして続けていきました。
さらにミニッツペーパーの質問や、掲示板の投稿を次回の授業で紹介していきました。これは従来の対面授業でも「授業だより」として manaba のコースニュースで紹介していましたが、オンデマンド化で双方向感をもっと出したいということもあって、授業内で紹介するようにしました。
「授業だより」についてはこちらの記事で紹介していますhttps://manaba.jp/case_study/5999/
もう一つ重視したことはコミュニケーションの促進でした。これは非同期(オンデマンド)と同期(リアルタイム)の二つを使い分けがポイントです。
非同期のコミュニケーションとしては、掲示板の活用が挙げられます。第1回目の授業だけ自己紹介をする掲示板を立てて、自己紹介だけでなく3人以上の人に返信してくださいというワークを行いました。
私の授業は基本的にオンデマンドでしたが、一部では同期、つまりリアルタイムの授業もzoomを使って行いました。具体的には、初年次教育の授業においてレポートの相互添削会や雑談会などを実施しました。レポートの添削会は学期の終盤に行ったのですが、小グループに分けてレポートを相互に添削しあうということを行いました。雑談会は、5月中に複数回、本来の授業時間に任意で参加できる形で行いました。困っていることの相談や、大学の状況の説明、また先輩学生を呼んで話をしてもらうといったことを行いました。
学生にアンケートを取ったところ、フィードバックや私自身の「顔出し」や相談会などについて高評価をもらえました。その一方で、学生同士の話し合いの場やディスカッションが少なかったことが課題として挙げられていました。
後期はオンライン+スクーリングによる対面授業を予定していますので、オンライン授業に関しては、自己紹介以外ではあまり行われなかった掲示板における学生同士のコメントの促進と、オンラインとスクーリングを組み合わせた形でのディスカッションのやり方について考えていきたいと考えています。
飯吉:お話を伺っていて、森先生の取り組みに圧倒されました。よく考えて、練られて、しかも臨機応変に対応されたのではないかと思います。
ではご質問です。ミニッツペーパーでコメントを任意で投稿すると加点されたということですが、結果として学生の反応はいかがでしたか。
森:初年次教育の授業では毎回学生の1/3程度が投稿していましたが。共通教育科目ではかなり多く、半分以上の学生から投稿がありました。
飯吉:ミニッツペーパーは公開でしたか、それとも先生に対してだけ送る形でしたか。
森:ミニッツペーパーはレポートとして私だけが見られるようになっていました。掲示板に出すものは、学生自身の判断で、レポートのコメントのコピーでもいいし、自分で出せる内容のものでよいとしていました。
飯吉:大人数の授業におけるフィードバックは、今後どうしていきたいとお考えですか。
森:今回は授業に組み込む形で質問に答えていく形を取りましたが、時間の関係上、答えられる数も限られてしまいますので、「授業だより」をうまく活用して、両方を組み合わせた形でフィードバックしていければと考えています。
飯吉:レポート相互添削会は先生も確認されましたか。
森:全15回のうち、第13回目の授業でやったのですが、グループ内の学生同士による添削に加え、最後は私も見る形を取りました。
飯吉:学生同士ではやはり不安なところもありますが、その辺は最後に先生も見られるということで、しっかりフォローされているのはさすがだと思いました。
では、参加者からの質問に移ります。
飯吉:200名規模の授業をオンデマンドで行ったのは、ネットワーク環境を考慮してということだったのでしょうか。
森:システムやネットワークの問題というよりは、リアルタイムである必要性はなく、オンデマンドの特性、つまり学生が何度も見返したり、自分の自由な時間に見られるというメリットの点を考慮して選択しました。
飯吉:教材の準備にはどれぐらいかけていましたか。
森:一つの授業を作るのに、平均で3時間ぐらいかけていたでしょうか。また、授業の冒頭に前回のミニッツペーパーの振り返りを入れていましたが、後半になるにつれ、学生のミニッツペーパー提出も遅くなっていくので、後半は、授業の直前まで動画作成を行っていました。
飯吉:掲示板では誰が投稿していたか名前がわかってしまいましたが、そのことに抵抗する学生はいませんでしたか。
森:加点にしていたこともあって、あまり嫌だという学生はいませんでした。
飯吉:学生の評価、そして動機づけはどういうふうに考えられていましたか。
森:評価については、必修科目でオムニバスの授業ということもあり、全学で基準が決まっていましたので、レポートで6割、その他の演習課題やミニッツペーパーが4割ぐらいです。
動機づけに関しては、ミニッツペーパーを出さない学生はいませんでしたが、記述量はかなりばらつきがありました。ただ、レポートを書きあげることがゴールだということは言い続けました。また、ちょこちょこ休む学生がいましたので、そういう学生には manaba の個別指導コレクションを使って直接サポートを行いました。
森 裕生 先生
鹿児島大学 高等教育研究開発センター 助教
専門は教育工学。博士(人間科学)。大学生を対象にポートフォリオを活用した学習の振り返りや学習を促進するツールやテクノロジに関する研究などに従事。
インタビュアー:飯吉 透先生
京都大学理事補(教育担当)
高等教育研究開発推進センター長・教授
京都大学大学院教育学研究科教授(兼任)
PDFデータは下記よりダウンロードいただけます。
※講演日:2020年9月18日(金)