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セミナー・イベント情報
第1回「私の遠隔授業」オンラインセミナー 基調講演
2020年7月22日(金)に実施された第1回「私の遠隔授業」オンラインセミナーで京都大学の飯吉透先生にご講演いただいた内容をまとめております。
基調講演「世界一受けたくなる遠隔授業を目指して〜学生を惹きつけ学びを深める工夫〜」
京都大学におけるオンライン授業の取り組み
コロナ禍の影響で、全国の大学で急遽オンライン主体の授業に取り組まざるを得ない状況になり、私自身もそうですが、
皆さんも日々試行錯誤が続いていると思います。
私がセンター長を務める高等教育研究開発推進センターを含め、いくつかの組織が共同して「Teaching Online @京大」*という
オンライン授業に関する情報を集めたポータルサイトを(2020年)3月に立ち上げ、ツールの活用方法や実践的なノウハウをわかりやすく提供しています。
オンライン授業を行うために役立つ支援情報やリソースを情報公開していますので、ご関心のある方はぜひご覧いただければと思います。
* https://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/connect/teachingonline/
「ILASセミナー」におけるオンライン授業の取り組み
では、実際の現場ではどうなのかということで、私が受け持っている「ILASセミナー」での事例を紹介したいと思います。
「ILASセミナー」は京都大学で全学部の1年生と留学生を対象とした少人数(定員10名程度)のゼミです。
そのなかで私は「教育イノベーション入門」という授業を、英語を使って行っています。
特徴としては、例年は留学生が多い授業であるということ、そしてまだ大学での学びに慣れていない1回生(1年生)が対象であることです。
通常はこの授業を14回の授業+フィードバック回1回という形を対面で実施していました。
しかし、今年はすべてオンラインでやらざるを得なくなったため、5月の連休明けからオンライン授業を開始しました。
「(世界一?)受けたくなる遠隔授業」を目指すには
従来のLMSを使った対面授業から、完全オンラインの授業に舵を切り、多くの不安もありましたが、結果的にはオンライン授業でよかったという点もあり、
概ね満足できる形にできたと思います。
改めてポイントを整理すると、
1.授業計画・運営は「しっかり」かつ「柔軟」に行うこと
目標の大枠は堅持しつつ、授業の内容は様子を見ながら柔軟に対応していくことが重要です。今回の取り組みで言えば、シラバスを見直して
授業の順番をかえてみたり、Virtual Classのように授業の形態をオンデマンドに変えてみるといったことです。
課題の提出などのルール作りや、学生たちへの周知・伝達もトラブルを未然に防ぐために大切です。
そのために、プロセスや手順をシンプルにわかりやすくする工夫が必要です。
また、TAの活用や、積極的な受講生をリーダーして登用し、TAとともに活用することで、円滑な授業運営が期待できます。
2.授業をよくするためには、「私の授業」だけを考えてはいけない
オンライン授業では学習のコミュニティー感をどう引き出すかもポイントになるでしょう。
対面授業であれば、一方的な講義としても、集まった学生同士でコミュニティー感が生まれますが、オンラインではなかなかそうはいきません。
そこで、授業の前後でコミュニティーが生まれる工夫をしました。
例えば、授業前も早めにZoomに入っておくことで雑談ができるようにしたり、ゼミの後半では授業後も学生にZoomのオーナーシップを渡して、
自分は退出、学生同士がコミュニケーションできるようなこともやりました。
このようにして、学生の満足度を高めることも大切です。また、理解度を高める工夫も必要です。
さらに、学生自身に個人やグループで試行錯誤させ、チャレンジ精神を養うことも重要でしょう。
3.教員-学生、 学生同士の心の距離を縮めることが大切
遠隔教育な距離は遠いわけですが、心の距離を縮めることが大切です。
そのために、先生自身が情熱をもって、どれほど内容の面白さを伝えられるかということが大事です。
学生の声を頻繁に聞いたり、フィードバックをこまめにすることで、学生を放置しないことも大切です。
また、アンケートツールを同期・非同期に係わらず活用することで学生の授業への参加管を高めることも大切です。
学生の声から
オンライン授業について、京大や他大の学生から集まった声をまとめてみました。
プラス面では、「自分のペースで学習ができる」「自宅で学習ができる」「復習が何度でもできる」などの声が多く聞かれました。
それに対し、マイナス面では、「課題が多すぎる」「授業内容についての理解が深まらない」「身体的・メンタル的な不調がある」という声が多くありました。
課題に関しては先生方も不安があるせいか、多く出しすぎる傾向があるようで、課題をこなすことに苦労している学生が少なくないようです。
授業内容の理解については、特に大学での学びに慣れていない1年生からの声が多く、逆に2~4年生からは理解が深まったという声もありました。
身体的、メンタル面での不調については終日パソコンに向かわざるを得ないことも大きく影響しているようです。
この問題に関しては、授業外でのコミュニティー感を上げることで緩和できるのではないかと考えています。
また、よりよく学べるオンライン授業のタイプについて聞いてみると、同時双方向+オンデマンドの混合型を上げる学生が一番多く、
次いでオンデマンド型、一番不人気だったのは同時双方向型という結果でした。
オンデマンド型は学ぶペースやタイミングを自分でコントロールできる点が評価されていて、逆に同時双方向型は自分のペースで学べない点や、
講義内容がつまらないという点で評価が低く、このあたりはオンライン授業の問題というよりも、興味を引くような講義を行えない教員側に問題があると言えるでしょう。
講演者
飯吉 透先生
京都大学理事補(教育担当)
高等教育研究開発推進センター長・教授
京都大学大学院教育学研究科教授(兼任)
カーネギー財団知識メディア研究所 所長、東京大学大学院 情報学環 客員教授、
マサチューセッツ工科大学 教育イノベーション・テクノロジー局シニア・ストラテジスト等を歴任。共編著書に『ウェブで学ぶオープンエデュケーションと知の革命』(共著、筑摩書 房)、「Opening Up Education」(MIT出版)等。
※講演日:2020年7月22日(水)