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manaba 導入校向け 教育の質保証・質向上オンラインセミナー

2021年8月6日(金)に実施された2021年度 manaba 導入校向け「教育の質保証・質向上オンラインセミナー」の内容をまとめております。

最下部に動画もご用意しておりますのであわせてご覧ください。

学習成果の可視化と 実質化に向けて

この間、文教政策においてアセスメントの必要性がいわれてきました。単に認知度を測るだけでなく、より深い学びや思考も見ていくべき、人間性やコミュニケーション、リーダーシップといった領域も測定、可視化すべきという話になってきています。しかし教育の成果というものは、それ自体が曖昧模糊としてつかみどころがないものです。教員、職員の方は、日々その難しさに直面しておられるでしょう。

 学習成果を学生に問うようなアンケートも行われてきましたが、そもそも間接的な方法でよいのかという議論もあります。英語の4技能テストのように、客観的に測定するツールも開発されてはいますが、まだ十分でないものも多く、そもそも困難な場合もあります。

 

 そこで注目されているのが、パフォーマンス評価といわれるものです。探究活動やプレゼンテーション、レポートといったパフォーマンスをベースに、そこに埋め込まれている資質や能力を捕まえていこうというものです。中でも注目されているのが、「ルーブリック」といわれるものを活用した評価方法です。また、個人のIDに紐づけをすることによって、すべての領域を網羅できる性質がある学習ポートフォリオ、これもパフォーマンス評価の一つといわれるツールです。今回は学習ポートフォリオとルーブリック、この2つに絞ってお話ししていきます。

 

学習目標に対応した評価方法の選択

測ろうとする資質や能力と、評価のためのツールの間には相性があります。例えば正誤問題や、回答が決まっているような問題というのは、試験で問えばよいわけです。しかし、技能、意欲関心、態度まで捕まえるのは難しい。

そこで、さまざまな形でそれを捉えようという取り組みが始まります。文章で書いてもらうスタイル、直接観察をして学生たちの振る舞いを見ていこうというもの、あるいはポートフォリオや自己評価、ピア評価など。さまざまな方法を組み合わせることで、1つでは捉えられなかった観点での測定、可視化ができるようになっていきます。

学習成果を測定する場合、何となく感覚で「40点ぐらいかな」というわけにはいきません。きちんと評価するためには、基準となる、ものさしを作る必要がでてきます。具体的にはどうすればよいのでしょうか。そこで登場するのがルーブリックです。はじめにルーブリックありきではなく、まずは課題があり、それを解決するツールとしてルーブリックがあると考えていただけばよいでしょう。

 

ルーブリックとは何か

学生の振る舞いの中に複数の要素が埋め込まれている場合、ルーブリックはそれをダイナミックに評価するのに役立ちます。ルーブリックは表形式の評価基準表ですから、表を作る作業が必要になってきます。ここではレポートの評価を例に、作り方をご説明しましょう。評価する際の観点(評価規準)を、順に縦に書き出していきます。横軸には「評価尺度」といわれる段階を設定します。3段階から5段階程度が一般的でしょう。その横軸と縦軸の間に生じる各セル内には、具体的な状態を説明する文章が入ります。この表を見ながら、当てはまるところに丸を付けていけばよいのです。そしてこれ自体に点数を乗せていけば、合計していくことでスコア化できます。傾斜配分をかけていくような使い方も可能でしょう。

 

たくさんのレポートを採点するとき、ざっくりとA、B、Cに分けるだけでは評価として不十分だけれども、一つひとつレポートに添削をするのは負担が大きすぎる。しかし何らかの形できちんと評価をしたい。そんなとき、ルーブリックはちょうどよいツールになるだろうと考えます。

 

ルーブリックのメリット

ルーブリックのメリットとしては、まず信頼性・妥当性のある評価ができることが大きいでしょう。採点者によるばらつきに加え、採点者も人間ですから、個人の中での採点のブレもでてくると考えられます。これらをできるだけ是正するという意味でも、ルーブリックが頼りになります。コンパスを持っておくようなイメージです。

また、これ自体が具体的なフィードバックになるという利点があります。レポートの結果と一緒に返すことで、学生はどこができたのか、できなかったのかを確認しながら、授業や活動の振り返りをすることができます。コメントを付す側の、負担軽減にもつながります。

そして具体的なフィードバックをすることは、学生の意欲向上につながります。学生からすると、そのレポートがどうだったのか、戻ってこない状態では、どうすればもっとよいレポートを書けるのかもわからないまま。これではモチベーションが下がってしまいます。

レポートやプレゼンテーションを課す前に、このルーブリックの表を渡しておくのもよいでしょう。「こんな観点での作成を期待します」ということをあらかじめ見せておくことで、学生の自己調整学習を促すこともできると思います。先に見せてしまうと、学生はそこだけクリアすることに徹底してしまって、それ以外の勉強をしてくれなくのではないかと心配をされる先生もいますが、経験上、それはあまり感じません。もしそうだとしても、そこを目指していくだけでも十分価値があると思います。チャレンジ的な観点を入れておくことで、そこだけに集中して学習が狭くならずにすみますから、おのおの工夫されるとよいでしょう。

 

適している科目は、文系、理系ということではなく、科目の目標や性質によります。実験や実技、探究学習、アクティブラーニングなど、一つの答えで評価できないようなものが科目の中に埋め込まれていたり、そういう科目目標である場合は、ルーブリックが非常に使いやすいでしょう。もう一つは、規模感です。500人の授業でルーブリックをやるのは、かなりきついといえます。

 

「従来の成績をつけるということも、ある意味では可視化と言えるのでは」というご意見がありますが、これはあくまでも教員と学生、個人の間でのやりとりです。科目の特性によりますが、これだけで可視化OKと判断するのは難しいでしょう。可視化のレイヤーをもう少し上げていくと、他の科目での成績がどうなっているのかをモニターしたり、他の教員と共有したりすることも含まれてきます。可視化は組織全体に昇華させていくことができるのです。

 

学習ポートフォリオとは何か

皆さま、ポートフォリオはうまく活用できているでしょうか。ポートフォリオの性質は、概念的なことだけでいうと、この図のような形で整理することができます。

学生たちは授業以外も含めてさまざまな経験をしています。それをそのままにしておくと、十分な学びや成長、実感が得られません。その経験から学んでいくということが大切なのです。そのためには経験を振り返って、「何が学びとして得られたのか」の抽象的概念化をし、その中で得られた学びを次のチャレンジに転用していく。このサイクルをぐるぐる繰り返していくことで、成長していく。これが経験学習のモデルです。ポートフォリオも、基本的にはそういう性質のもの。それを具体化するためのツールだと考えます。

学習ポートフォリオの構成要素は3つあります。この3つが組み合わさることで、学習として成立すると言われています。これらがきちんと担保されているかどうか、改めてご自身の大学で問うてみてほしいと思います。1つ目は活動の履歴をエビデンスとして乗せる機能。これは皆さん持っていると思います。2つ目は、それが学生の省察を促すものになっているか。3つ目は、それにコラボレーションやメンタリングという要素が乗っているかどうかです。

3つ目はとりわけ重要です。コラボレーションやメンタリング部分があるかないかで、ポートフォリオがうまくいくかが決まってくる。これは、ポートフォリオの研究の中でもずっと言われていることです。学習ポートフォリオの成功というのは、メンターアドバイザーにかかっているのです。

学生がシステムに活動履歴をひたすら書き込んでいくだけのものだとしたら、それが半期単位、1年単位でずっと繰り返されていくとしたら、学生はやるでしょうか。僕が学生なら続かないと思います。ですから、例えば目標を立てましょう、1年間やってみてどうだったか振り返り、その結果をアドバイザーやメンターの人とディスカッションしてみましょう。「ここはうまくできた。うまくできなかったところは、次はどうしていこうか」これが入ることによって、その人自身、「やってみて良かった。成長できた」という実感につながっていくのです。

 

学習ポートフォリオのメリット

ポートフォリオは、さまざまなエビデンスを集積することができる重要なツールです。そこさえしっかり回せば、もういろいろなアセスメントは必要ないとすら言えるでしょう。ポートフォリオには大きく4つの機能があります。学びと成長を促すこと。メンターやアドバイザーが関与することで、学習の支援にもつながること。蓄積されたデータに基づいて、教育の改善につなげていくこと。そして、それを外部評価にも使っていくこと。これをしっかりと回すことによって、学生のサポートから教育の質保証、外部評価、アカウンタビリティまで叶えることが可能になるのです。

学習には明確にテストで測れるものもあれば、それ以外のものもあります。今の教育改革は成果や結果に比重を置いていますが、私は、エンゲージメントと言われる、プロセスに対する評価も大事だと考えています。アウトカムだけではなく、学生が行うさまざまな活動のプロセスをその中に組み込むことで、総括的な評価に加え、形成的な評価にも使うことができるのです。

学習ポートフォリオは、一部分の切り取りだけでなく、学習全体の評価にも使えます。学習習慣、学習態度、省察能力、自己評価能力のほか、医療の中で重視されているようなプロフェッショナリズムなど、他の指標やツールでは評価することが難しいものも評価することができます。

とりわけ省察能力や自己評価能力というものが、とても大事だと考えます。自分の中でのPDCAサイクルを回すことができるようになること、これは、細かい何かのスキルを身につけることよりも、より重要だと思うのです。自己調整学習を促すという意味でも、このポートフォリオはとても効果的だといえるでしょう。

さらには、キャリアの文脈や履修指導にも使えますし、教学IRのデータや認証評価にも活用することができます。

 

ポートフォリオ成功の秘訣

医療の領域の論文に、ポートフォリオ成功の秘訣は大きく4つあると書かれています。まずは「導入時の説明」です。どういう効果があってなぜそれを入れるのか、なぜポートフォリオを使うのかをきちんと構成員で共有しましょうということです。

それから、「アウトカム領域の共同設定」です。プログラムを修了する時のアウトカムというのを、できる限り学習者とメンターの間で合議のうえ設定することが効果的と言われています。

加えて、メンターの研鑽というものも必要になってきます。メンターの先生との1対1だけでなく、1年間作ってきたポートフォリオを持ち寄り、学生同士で共有する、そんな取り組みもあります。また、先生との対話の記録を残し、半期ごとに先生との面談を繰り返し行っている大学もあります。

それから「時間と労力」も、やはり必要です。大変ではありますが、システムだけ入れて「どうぞ使ってください」という形では、学生は使わないと思います。必ずしも教員である必要はありませんが、教員や職員、あるいは専門職の方がここに一定の労力を割くことをしないと、うまく回らないのです。

 

学習成果の可視化から実質化に向けて

ポートフォリオを入力するメリットが必要だというご指摘がありますが、その通りだと思います。例えばキャリア支援プログラムの一環として学習ポートフォリオを活用し、就職活動にいかす仕組みなどが考えられます。在学中にくみ上げてきたポートフォリオを、まさに社会に開くこと。就職活動などで、それを一つのエビデンスとして見せるといったことが検討されています。

ディプロマサプリメントというものの検討もこの一つです。単に成績がどうだったかというだけでなく、あなたが在学中にどんなことを考え、どんな成果を出したのか、ディプロマを補うという意味です。ポートフォリオを就職などに活用し、社会とのレリヴァンスを高めていく取り組みが、既に始まっています。その重要性を、企業の側にもご理解いただくことが求められています。

可視化そのものが目的化されないかという、ご心配の声もあります。可視化は、学生の学びと成長を促すためのものであるはずです。そのためにも、学習成果の目標を設定して、教職員、学生の間で共有する。そして評価して確認して終わりではなくて、学生にフィードバックする。特にルーブリックやポートフォリオといったパフォーマンス評価、パフォーマンス課題というものは、指導と評価が一体化されたツールや評価方法です。フィードバックや対話が不可欠といえるでしょう。

また、実践内容、評価結果を評価し、改善・向上につなげるための場を設けるということも大事。結局そこに魂を入れていくためには、やはり対話なのだろうと思います。いくらシステムが進んで、遠隔授業が行われるようになっても、この対話的な機能が学生の学びや成長にとっては非常に大事です。対話を促すツールと捉えて運用している大学は、ポートフォリオはとても生き生きと活躍しています。どうせやるならば、質の保証、質の向上、そして学生の成長、全部がうまく進むようなデザインにしていくことで、とても良いツールになり得ると思います。

 

インタビュー・質疑応答

司会:到達度などを授業の中で評価していくことは、非常に難しいとお考えの方も多いようです。ルーブリックの指標を作るには、それなり技量が求められるのでしょうか。

山田:学習成果を測定し、可視化するうえで難しいのが、どの単位で取るかということです。個別の授業のレベルなのか、学部・学科といった教育のプログラムレベルなのか、あるいは大学全体のレベルなのか。ここは交通整理が必要ということになります。

ルーブリックは1つの授業の中でレポートなどパフォーマンスを評価するので、これは個別の授業の中でなされるのがよいと思います。一方ディプロマポリシー(以降DP)は、もう少しマクロレベルでの測定・可視化をイメージしています。どこかのタイミングでそれを見るということになりますが、4年次卒業論文というのも一つですし、理科系の学部などは、専門課程に移行した際に基幹科目でしっかり見るというのもよいでしょう。

ルーブリックを作るうえでの専門技量は、それほど必要ないと思っています。何人かでテンプレート的なものを作っておき、それを学部、学科の性質にあわせてカスタマイズして使うというのも、よく行われている方法です。

 

司会:「個人の取り組みではなく、組織としての取り組みが大切になると感じました」というコメントを頂いています。

山田:おっしゃる通りですね。DPであれば、それぞれの学部として、あるいは大学としてそこに学生がきちんと向かえるのかアセスメントすることになります。やはり個人個人に任せてしまうのではなく、部局単位でしっかりと見ていくことが必要でしょう。

 

司会:「本学の教授も、学修成果の可視化の必要性は何となく理解しているものの、授業の方法は教員個人が考えることだという意見も根強くあります。可視化の実現の必要性を理解してもらえるような、魔法の言葉はないものでしょうか」、こんな質問が来ていますが、いかがでしょうか。

山田:このご意見について、共感できる方は多いと思います。やはり新しいことをしようとすると、保守的な意見を受けることもある。それでもやはり大学として、学生が自分たちの大学を選んだくれた以上、彼らが「この大学に来てよく学べたな、よく成長できたな」と思って卒業してもらう、社会に出て健康で幸福に活躍していってもらう、これしかないわけです。魔法の言葉はありませんが、「これが必要なのだ」と言っていくしかないと思います。一回チャレンジしてみませんかということです。「うまくいくのか」と言われるかもしれませんが、「やっていきながら考えてはいきませんか」ということで、小さなところからでもやってみる。そうすれば意外と「これぐらいならいけそうだ。もう少し続けてみよう」と言ってくれる仲間もできると思うのです。文化を変えていく作業はとても時間がかかりますが、少しずつ広げていくことができればと思います。

 

司会:「実際にポートフォリオ、ルーブリックを使用した授業について、学生の反応が知りたい」ということですが。

山田:実際に行ってみると、やはり良いというのがわかると思います。いま学生たちは、せっかく自分が優れたものを持っていても、それが見えずに自信をなくしています。SNSもあって、自信を持つことが難しい社会状況なのです。ですから、思っていることを文章に落とす、振り返るという機能だけでもかなり違います。

学生たちは、何かの取り組みをした後、それに対してどうだったのかという反応をとても期待しています。「よかったよ、面白かったよ」だけでもいい。そういった言葉かけやフィードバックがあるだけで、学生の反応は全く違ってきます。私自身も「だから、コロナ禍でオンラインでも頑張れました」というコメントをたくさん頂きました。ポートフォリオ自体、ルーブリック自体がどうかというよりも、それをただの作業にしないということが大事なのだと思います。

 

司会:学生さんの数が10人程度のゼミもあれば、100人200人の授業もあります。体力的なものもあるなか、どの辺りで落とし所をつけていけばよいでしょうか。

山田:ミドルレベル以上のところになってくると、その学年のアドバイザーの方やピアの力を借りるというのも、一つの方法かと思います。先生に加え、職員や専門スタッフという形で、いろいろなアクターがそこに関わり、サポート体制を作るということでしょう。それが職員組織であれば、業務文書としてきちんと規定されるべきだし、交通整理も必要です。教員だけで抱えるのは大変です。職員や、場合によってはピアの学生さん、先輩たちの育成もしていくことによって、かなり負担軽減ができる。そういうところから、ポートフォリオをうまく連動させていけば、とても良いツールになるだろうと思います。

 

司会:「DPを具体的に理解するときに、教員によってかなり違う場合がある。DPの具体的な理解の方法をどうしたらよいか」というご質問をいただいていますが、いかがでしょうか。

山田:正解があるわけではありませんし、10人いれば10人の考え方があります。議論をしても、どうしても詰まらない壁もあるでしょう。しかし、完全に一致させないと前に進めないというより、組織として決まったのであれば、いったんこれで動いてみませんか。解釈も、読み方も、当然先生によっても学生によっても違うはずです。そこの違いもいったんは飲み込んで、ここは合意できるというところで前に進んでいくことだと思います。大人同士の世界から、もう少し学生の方に向いて考えようではありませんか。

専門スタッフの能力が心配という声もありますね。そもそもこの専門スタッフの能力として、どういうものが必要なのか、一概には決めにくいところがあります。しかしこれも、走りながら考えるしかないと思っています。そこはチームで当たるのもよいですし、OJT的な形で見守りつつ育てていくようなスタイルも、大事なのではないかと思います。

 

講演者

山田 剛史先生

関西大学
 教育推進部 教授

神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。専門は、教育学と心理学(特に、教育開発、学びと成長支援)。島根大学教育開発センター講師・准教授、愛媛大学教育企画室准教授、京都大学高等教育研究開発推進センター准教授を経て、2020年10月より現職。現在、初年次教育学会理事、日本青年心理学会常任理事、日本アカデミック・アドバイジング協会副会長などを務める。

 

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※講演日:2021年8月6日(金)

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