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2021年度 第2回教育の質保証・質向上オンラインセミナー

2021年7月21日(金)に実施された2021年度 第2回「教育の質保証・質向上オンラインセミナー」の内容をまとめております。

最下部に動画もご用意しておりますのであわせてご覧ください。

『学修成果の可視化』の後にすべきこと

教育の質保証、質向上に関わるキーワードとして、教学マネジメントという言葉がよく語られます。これについて、以前提案した4層モデルに加え、今回はM/PDCAモデルを提起したいと思います。その上で具体的にどのようにカリキュラム評価をしていけばよいか、評価の後、何をすればよいかについて、改善につながる組織やメタ学習のお話も交えてお伝えいたします。

 

1.教学マネジメント指針

中教審のグランドデザイン答申において、「教学マネジメントが非常に重要である」ということで指針の策定が行われました。その中には、「カリキュラムの全体構成や、学習者の習熟度などを考慮、把握することなく、単に個々の教員が教えたい内容が授業として提供され、体系的なカリキュラムが意識されていない」という指摘がありました。全学的な教学マネジメント体制を確立させ、学修成果の可視化や、情報公表の促進させるねらいがあったかと思います。

この時に出された情報例に、「外部評価や補助金獲得の際に、出さなければいけないもの」「出しておいたほうがいいもの」が挙がってきています。それを見ると、おそらく各大学の関係者の皆さんは、「うちはこれが出ていない。早く出さなければ補助金にも関わる」と、動かれる。それによって各大学が振り回されてきた実態があるのではないかと思います。

 

2.教学マネジメントの4層モデル

この状況をどう考えたらよいかということで、私なりに教学マネジメントを定義してみました。「学習レベル」「ミクロ教育レベル」「ミドル教育レベル」「マクロ教育レベル」の4層で説明しています。教学ですから、教育と学習のマネジメントだと考えたわけです。

この4層に、それぞれPDCAのステップ、計画・実施・評価・改善があります。例えば授業でいうと、シラバスを作ったり授業案を設計するところが出発点。実際の授業を行い、授業の評価が行われ、結果を踏まえて授業改善を行うという一連のサイクルです。授業のマネジメントが一番わかりやすいので、おそらく一番実施率が高いでしょう。

最近よく言われているのが、カリキュラムのサイクル。中でも問われているのは評価の部分です。さらに、最もイメージがつかなくて、学生個人に任されてしまっているのが、学習の部分です。学生自身も自分で計画を立てて学び、評価をして改善するというサイクルがあるはずです。一部の大学ではラーニングポートフォリオを使う、あるいはアカデミックアドバイジングのようなサービスを提供しながら、ここを回しているということかと思います。

ここでの結果を大学の外に公表したり、学外からの情報を得たりすることで、このサイクルも変わってきます。政府や外部評価団体から情報が流れてきたら、それをプロットしてみると、「うちはここが欠けているな」あるいは「ここは形式的でよい」などと、分析することができます。

一つ一つの項目について、やっているかいないかだけで判断すると、バラバラになってしまいます。構造の中に位置づけて教学マネジメントを進める必要があると思い、この図を提起させていただきました。

 

3.PDCAからM/PDCAへ

遡れば、アメリカの経営、品質管理を専門とする方たちが日本に来て、品質管理の関係者に講演をし、この方たちがPDCAという言葉を作って広げていったと言われています。当時は工場の生産工程での、品質管理の改善モデルということでした。その後、企業がそのサイクルを経営の場に適用していき、行政、大学にも普及していったということです。

このPDCAを大学で使うことに対して、さまざまな批判がありますが、3つにまとめられています。

1つ目は「もともと工場で部品や物を作るための工程だったものを、なぜ人間に当てはめるのか」、2つ目は「経営学では『PDCAはもう古い』と言っているのに、なぜ今ごろ大学関係者はそれを使おうとしているのか」、3つ目は「もともとボトムアップでの業務改善に使われていたものなのに、行政もトップダウン型の管理手法でこれを使おうとしている。ここに問題がある」ということ。3つの批判に共通しているのは、「教育の世界というものは、偶然の産物がたくさんあるにもかかわらず、それを限りなく排除してしまっている。これに問題がある」と整理されています。

改めてこのPDCAを考えてみると、批判の中にはうなずける部分もあります。一つは、プランの絶対視問題。つまり「計画は絶対にやらなければといけない。計画していないことは、やらなくてもよい」ということです。このような議論は学内でもあると思いますが、計画そのものをメタ化し、「本当にこれでいいのか」と疑うような視点は必要です。Pだけではなく、DやCやAについても、一度俯瞰してみる必要があると思います。

それから、「評価まで行っても、その後の行動変容が行われない、次の計画に反映されない」という問題があり、海外の研究でも指摘されています。そもそもこのモデルの中では、評価の後、行動の変容にどう結びつくのでしょうか。行動の変容の前にはおそらく認知の変化があると思うのですが、そのプロセスが必ずしも具体的ではありません。そのために評価と行動・計画が断絶してしまっているということがよくあります。この断絶問題をどう考えるのかが、残された問題としてあるわけです。

そこで私が提唱したいのは、PDCAを俯瞰する位置に、Meta-Learnというものを置く、M/PDCAモデルです。PDCAは平面のサイクルで描かれることが多く、時間軸で進めていくイメージですが、立体モデルとして考える必要があるということです。メタレベルから、P、D、C、Aそれぞれの妥当性について検証する。つまり合理性や必然性といった、そのものの常時検証を行うということ。これは先ほど批判されていたことに対する対応策でもあります。これによってプランの絶対視問題、あるいはCとAとかPが断絶していることについても、しっかりとメタ学習をする必要があるだろうと思っています。

そもそもこのPDCA自体が組織学習だと言われますが、「何となく行われている」ではなく、意図的にメタ学習の場を設定する必要があると考えます。この組織学習という言葉は、「組織と個人を包含するシステム全体における組織ルーティンの変化」と定義されています。組織のルーティンとは、組織で繰り返し利用される仕事の進め方や情報処理の仕方などのこと。これが変化することによって、初めて組織学習が成り立つのです。

個人だけが変容するのではなく、個人の変容が結果として組織の変容にも関わっていなければいけません。「うちはここが弱い」と頭でわかっているだけでは不十分。潜在的な行動の変化まで含まなければいけないということです。組織ルーティンの変化が見られれば、学習が成立したと捉える考え方です。

そもそもの提唱者であるアメリカのデミング自身も、実はこのスタディという言葉を中に入れて使っていたということもあります。ですので、PDCAとこの組織学習というのは、非常に馴染みのいい考え方だと思います。

 

4.カリキュラム評価の基本的視点

学内でカリキュラム評価の話が出てくると、必ず批判の声が聞かれます。他大学で研修する際にもよく言われます。

そういうときには、こんなことを聞きます。「今年度卒業の学生さんは、例年と比べてどういった資質や能力がありますか? そのエビデンスは何ですか?」そうすると、「今年の学生さんは真面目です」というような回答がされます。具体的に数字を挙げて言う人はあまりいません。

しかし、「卒業生はDPで示した3番目の能力は強いが、4番目は弱い」と言えるならば、非常に具体的です。この具体的な情報が、「これを改善しなければならない」と示唆してくれるのです。ここまできたら、強いところを伸ばすのか、弱いところを補強するのか、やるべきことは非常にクリアになってきます。

提唱したウォルワード氏の定義は、評価とは「学生の学びに影響を与える意思決定に役立てるために、時間や専門知識、利用可能な資源を用いて学生の学びの情報を組織的、計画的に収集すること」とあります。私が重要だと思っているのは、前半です。「学生の学びに影響を与える意思決定に役立てるために」という部分が共有されず、後半だけで評価を行っている大学が多いのです。そうすると結局は組織ルーティンの変化にならない、つまりアクションにつながりません。

アセスメントというのは、外部評価機関から言われたから行うものではなく、大学自身と学生のために行うべきもの。アセスメントポリシーには、ぜひともこの前半の文言を入れていただくとよいと思います。

 

5.カリキュラム評価の3段階

実際に、カリキュラム評価をしていくに当たっては、「目標設定」「情報収集」「改善」の3段階があります。ウォルワード氏が「4時間でカリキュラム評価を行う」という話をしていますが、これは、例えば、教員が卒業生の卒論を10%抽出し、ルーブリックを使って二人で評価してみるというものです。それからアンケート調査もしくはフォーカスグループインタビューにより、質的データを集めます。これをもとに、年に1回4時間の教授会を行って総括的な学習結果を評価し、来年度以降は何をするか、議事録3枚程度にまとめてウェブサイトにアップする。これを毎年のルーティンにしようというわけです。

実際にルーブリックで分析してみた例を挙げましょう。「1年目を見ると、実験計画と変数制御に関する能力が低かった。2年目もやはり低い。ということは、ここの学生は、この実験計画と変数制御に関する能力が低いということだ。だからここを補強しよう」という話になります。皆さんならどんな補強を考えるでしょうか。

次は改善の段階。ループの最後の段階です。このクロージング・ザ・ループを皆さんがやられているかどうかが大切なのです。学生の学びをいかに向上させることができるかを検討して、カリキュラムを変える。方針、財源、組織計画を変更する。ここで初めてFDなんですね。

私もよくFDの依頼を受けますが、「何でもいいので、好きなテーマでやってください」と言われることがあります。あるいは、何となくやっておいたほうがいいという理由で、「アクティブラーニングお願いします」と言われることもあります。しかし本来は、このクロージング・ザ・ループの最終段階で出た結果に基づいて、伸びが弱い部分を補強するため、あるいは伸びがよい部分をさらに伸ばすためのFDとして依頼をするというのが、本当の依頼の仕方ではないかと思うのです。

例えば歴史学部の場合、「卒論サンプル検証をしたところ、歴史的考察力と批判力、歴史学部で歴史的考察力が欠けていた。これはいけないということで、必修科目でこの2つのスキルに力を入れることにした」と。弱いからここの部分を補強しましょうというのは一つあると思います。

それから衛生学部の場合。「いろいろな分析結果が見られたので、先輩から新入生への学習時間や学習方法のアドバイスの機会を求めたり、非常勤講師への支援とFDの強化を行った」、学生からすれば、非常勤であろうが常勤であろうがあまり関係がないので、その両方についてしっかりとFDを行ったということだと思います。

このような話を講演でも説明するのですが、なかなかこのようにはなっていきません。それはなぜなのでしょうか。

 

6.カリキュラム評価を活かす組織デザイン

ウォルワード氏は「アセスメントするには個別データの収集だけでなく、意思決定をするためにデータを提供するシステムが必要である」と言っています。システムは「情報」「消化」「意思決定」の3つで構成されます。

いまこれだけ情報の可視化だと言われているので、学生の学びを示す情報はあると思います。しかし、情報を見るだけでは行動変容につながりません。一回口の中に入れて消化しなければいけないけれども、その場がない。だから意思決定に結びつかないのではないかということなのです。

「IRの部署も立てました。中期目標、計画策定もあります」というときに、データはどこにあるでしょうか。教員個人や学部学科、学生支援関係など、それぞれが持ってはいるものの、集約が不十分で、消化の場がない。だから学部レベルの意思決定にすら結びついていない。アクションに繋がらないんです。だから全学の行動変容が起きないということです。

ではどうすればよいでしょうか。まず、学部学科レベル、あるいは共通教育の部署での、データの消化と決定を、しっかりやらないといけません。先ほどの4時間でやりましょうという話を、きちんとやっいてるかどうかということが大事なのです。そして全学でも、関係者を全部集めて、しっかりとしたアセスメントをする必要があります。これにはサポートも必要でしょう。場合によっては資金を提供することも必要かもしれない。

とにかくデータをしっかりと集めて、それをしっかりと消化する場が必要だということが、ここで言われているのです。これが今回提案するM/PDCAのMの部分だと、私は思います。

 

7.メタ学習のルーティン化

では、メタ学習というものを、どうやってルーティン化していけばよいか、そのポイントをお話ししましょう。

まずは全学の年中行事にしっかりと入れ込むということです。これは個人でできることではないので、こういうことが提案できる方に、ぜひご検討いただきたい。「これやらなければいけない」と言っていただきたいのです。これは絶対に各部局に任せないで、全学でやらないといけません。

そのとき、自己評価と他者評価を組み合わせるということです。それから短時間でシンプルに行うこと。また、他者評価をする時に、学生、他大学関係者、企業関係者や高校関係者などを入れると、マンネリ化が防げます。

私が今関わっている大学での、メタ学習のルーティン化のスケジュールをご紹介します。4月に始まって、運用は2月ぐらいまで行くと思います。年明け1月から3月、4月あたりで評価を行いましょう。先ほどの4時間の教授会といったものを、この辺りに入れ込んでいただくとよいと思います。その結果をもって、今度は全学のカリキュラムアセスメントを行います。日本の場合は研修会がよいかと思います。評価結果をしっかりと消化して、行動変容計画を立てるというところまでやります。5月ぐらいになるところが多いです。これをルーティンで繰り返していきます。

実際のメタ学習の例を挙げると、こんな感じです。最初2つの学科を組み合わせてグループを作ります。まず一方が自己評価を発表し、聞いている側は他者評価シートを記入しながら聞いていく。今度は役割を交代します。そして互いに質疑応答をし、総括コメントシートを記入して終わりです。これでトータル2時間半。これぐらいでしたら、なんとか入れてもらえるのではないでしょうか。

実際にはA学科とB学科に分かれてお互いにバーンとやり合います。このとき自分たちの所属している学科を守ろうとしますから、ここで団結力も固まります。

この学部学科の組み合わせには工夫が必要です。工学部の電気情報システム学科と哲学科といった、学問領域の異なる組み合わせがよいでしょう。あるいは批評的な学科と、熱心に取り組んでいる学科を組み合わせるのもよいと思います。また、ポジティブなグループと、よく固まってしまうグループを組み合わせると、冷めているところに火がつくことも考えられます。

そして、これをワンフロアでやることがポイントです。盛り上がらない状態であっても、隣で白熱していると、「うちも真面目にやらなければ」という雰囲気になるからです。別々の教室で行うのは、避けたほうがよいでしょう。職員や学生を入れると冷静になれますし、マンネリ化防止のために、他大学の先生や企業の人、高校関係者を呼ぶといったアイデアもよいと思います。

 

まとめ

教学マネジメントについて、私なりに4層のモデルで説明をしました。この活動が機能しない理由の一つは、メタ学習が欠けていることです。情報の消化と言ってもいいでしょう。それを追加したM/PDCAモデルが有効だと思います。

そして、カリキュラム評価においては定義の前半が大事だということです。意思決定に役立てないための情報というのがあまりにも多すぎるし、意思決定をしないと、いつまでたっても何も変わりません。そのためにはシステムと、管理職の覚悟が必要でしょう。メタ学習をルーティン化するため、全学的なスケジュールの中にFD・SD研修会を入れることをおすすめします。

 

飯吉先生インタビュー・質疑応答

飯吉:佐藤先生ありがとうございました。「うちの大学では、こういうところがうまくいっていないようだ。そこを何とかしてもらえませんか」という話があると、FDの講演もしやすいわけですね。

そもそも自分の大学で何を求めていくのかわかっていないと、オプションも選べません。リストを上からチェックしていくだけではなく、どう進めるのがよいか、アドバイスをお願いします。

佐藤:何らかの構造をしっかりと自分たちで作った上で、そこに情報をのせていく必要があります。例えば「中退者の数というのはどこに当たるんだろうか」というようなことです。そうすると「そもそもプランニングをほとんどしていなかった」などと気づくことができます。羅列されたバラバラのピースだけを見て判断するのではなく、全体像を自分たちで作っていくということが大事です。

 

飯吉:私はアメリカで、互助的な切磋琢磨による授業カリキュラム改善を行ってきました。PDCAとは違った側からトンネルを掘ってきたつもりです。しかし、トンネルは両側から掘る必要がある。無機質に見えるPDCAに温かみのある肉付けをしていくとすると、どんなところがポイントになるでしょうか。

佐藤:PDCAサイクルと言ってしまうと、Pから始まらなければいけないように感じますが、必ずしもそうではありません。「こんなふうに変えてみたら、学生の反応がとても良くなった」と、Aのあたりから始まることもあるでしょう。

まさにコロナ禍では、じっくりプランニングしている時間はなかったはずです。場合によっては、Dばかりになることもあったはずです。

今回の4層モデルはあくまで理念型。図では同じ幅になっていますが、「うちはとにかく授業をしっかりと回すんだ」ということなら、この図自体を文脈に合わせてカスタマイズしていけばよいのです。

 

飯吉:最後に、M/PDCAのM、メタの部分についてです。PDCAは回っているサイクルが一つではなく、いろいろなものを回さなくてはなりません。その意味では、メタの部分を統合的に理解していくことで、ある部分は省力化できるかもしれないし、さらによく回せる部分も出てくるかもしれない。ただ、皿回しのように幾つも同時に回すと落としてしまうかもしれない。ここをうまく乗り切っていくためのアドバイスをお願いします。

佐藤:「複数のお皿を回しながら、ジャンプしろ」というようなことでは、かなり無理があります。ですから、センターや委員会など、一番PDCAが回っているところとは別な組織の人が見て、「ちょっと回しすぎでは?」と助言をしてあげるのがよいでしょう。落としそうになったらサポートをする。場合によっては一時的に「皿1枚なら回しますよ」というところがあるべきだろうし、私自身はそれが役目だろうと思っています。

「うちではスタッフの余裕もないし、できる人もいない」と思うかも知れませんが、やはりそういう人材は育成していかなければいけないと思います。学部の先生ができる人材を、そこから離して、IRやFDの担当をしてもらう、あるいは教学マネジメントの部署に職員を張り付けるのは、そういった意味があると思うのです。

外部の人にそこを助けてもらうこともできますし、場合によっては学生のFDをうまく組み入れることも可能かと思います。

 

飯吉:いくつかチャットのほうに質問を頂いています。まず4層モデルの学習の部分について。「学生自身がPDCAを効果的に自身の学習に活かすには、どのような働きかけがあるか」という質問ですが、いかがでしょうか。

佐藤:学生自身の学習マネジメントについては、これまであまり議論されてきませんでした。「大学生なんだからそれができて当たり前」そういう言説がずっと流布してきました。実際にできる学生はいますし、おそらく高等学校や予備校、家庭での文化資本の継承が大きいかもしれません。

しかし、大衆化した大学の中では、格差の原因がそこにあることも考えられます。それを標準化するために、一つは初年次教育がそのチャンスになるでしょう。今の初年次教育は、レポートの書き方など、学習マネジメントサイクルを回す上で必要な学習スキルに特化しているところがあります。悪いことではないのですが、それもやはり、もう少し俯瞰できるよう、初年次教育の中身を変えていくことが必要と考えます。

コロナ禍で、学生はより一層マネジメント力、自己調整型学習能力が求められるようになりました。オンデマンド教材ばかりの授業で、昼夜逆転が常態化するようなことも起きています。コロナ禍でテレワークが普及し、学生でなくても生活リズムが狂ってくる。セルフマネジメントは、国民レベルで義務教育からやっていく必要があるのかもしれません。

 

飯吉:「可視化で出たデータベースで改善を学内で提案する際に、反発されないコツはありますか。また、設計段階から教員に参加してもらうためにはどうすべきか、アドバイスをいただきたい」とのことですが。

佐藤:教学マネジメントのステップは、全てが教職員にとって学びになると思います。大学では、誰しもこれに関しては素人です。どうしていいかわからない。だから、常に研修の場を作って、学んでいくのがよいです。外部講師を招くのでもいいですし、先行して行っている学部学科があれば、そこでの経験を共有しながら、時間をかけてやるのがよいと思います。

ただ、今は本当にさまざまなことを行わなければなりません。コロナ対策も含め、皿を一度に何枚も回さなければいけない中で、教学マネジメントのシステムを作ろうとしていること自体、少々無理があります。本来ならば何年間もかけて組織のカルチャーを変えていくべき内容です。「まず誰を指名して、年に何回集まっていただいて」と段階を踏んでやっていかないと、なかなか急には難しいのではないでしょうか。

 

飯吉:「M/PDCAを、それぞれのセクションが別々にやってしまう」という問題についてはいかがでしょうか。

佐藤:FDとIRは車の両輪のようなもの。消化の場面では関係者が集まって行う必要があります。役割分担をしている施設が協業して進めるためには。日常的な交流が大切だと思います。この間のトレンドとしては、教学マネジメントセンターという形で、FD部門とIR部門を合体させる動きも国内で出てきています。

飯吉:縦割りの組織には、それをつなぐためのバーチャルなプラットフォームが必要ですね。

 

飯吉:組織がメタ学習という視点を獲得するにはどうすればよいか」ここはどうでしょう。

佐藤:私は必ず、A学科とB学科を組み合わせる形にしています。同じ大学内でも、組織によって回し方が違うからです。質的なデータで回しているところもあれば、量でやらないと意味がないというところもある。「自分たちは当たり前だと思っていることが、隣の学科では違っていた。話を聞くだけでメタ化できた」ということがよくあるのです。

同じ学科でも隣の大学と行えば、全学的なカルチャーの違いもわかってきます。異質なものと組み合わせることで、このメタのプロセスに参加できるのではないでしょうか。

 

飯吉:次の質問は、個人的にはワクワクします。「佐藤先生の世界観、人生の羅針盤は何でしょうか。学生をどのように導きたいか、人間の本質をどうお考えでしょうか」ということですが。

佐藤:「人はいつでもどんな時でも、どんな状況でも学びたがっている」ということ。これは信じるしかないことです。皆が学生にとっても先生方にとっても良かれと思って行動している。どんな先生方も、授業を良くしたいと思っているし、カリキュラムを良くしたいと思っていると信じてやっています。ただいろいろな障害があることで、学びたい欲求が阻害されてしまうことがあるのです。そのノイズを取り除いて、皆さんの意欲が発揮できるようなカルチャーを作っていきたいと思っています。

 

飯吉:学修マネジメントという意味での初年次教育については、いかがでしょうか。

佐藤:初年次教育に関しては、これから大きく内容を変えていく必要があると思っています。まさにこういう学習のサイクルは、動機づけや方略がないと回せないので、いくつか追加すべきものもあるでしょう。またコロナ禍での学びということで、授業のスタイルもさまざまですし、オンラインでの留意点もありますので、これはかなり組み換えが必要だと感じています。

 

飯吉:「これは教員、これは職員の仕事と、役割を認識して納得してもらう、うまいやり方はありますか」というご質問です。もちろんそれぞれの専門性をいかした教職協働が望ましいとは思いますが、いかがでしょうか。

佐藤:これはカルチャーにもよりますが、ボトムアップで変えるというのは時間がかかります。最初はトップの力を借りるしかないかもしれませんが、結果として「これは大事だな」ということで理解いただけると思います。

 

飯吉:大学の文化によるところはあるでしょうね。学内でも、異言語どうしで話すのは難しいという話もありますが、これも一朝一夕にはできません。普段から文化的な部分でのすり合わせや相互理解といった基盤がないといけない。

佐藤:共通言語を作ることは重要だと思います。「うちの学内ではこういうふうに定義します。FDはこうです。IRはこうです」というのを、しっかりと関係者が定義をして、用語集を作って、そこから始めていくことが大切です

飯吉:良いアドバイスをありがとうございました。

 

講演者

佐藤 浩章先生

 大阪大学
 全学教育推進機構 教育学習支援部・准教授

1997年北海道大学大学院教育学研究科・修士課程修了,2002年北海道大学大学院教育学研究科・博士後期課程単位取得退学。博士(教育学)。

専門は,高等教育開発。同年4月より愛媛大学大学教育総合センター教育システム開発部講師・准教授、教育・学生支援機構教育企画室准教授・副室長を経て、2013年10月より現職。

この間、ポートランド州立大学客員研究員、キングスカレッジロンドン客員研究フェロー等を歴任。近著に『授業改善』(2020、共編著)、『大学のFD Q&A』(2016、編著)、『大学生の主体性を促すカリキュラム・デザイン』(2016、編集代表)等。


インタビュアー

飯吉 透 先生
 京都大学
 高等教育研究開発推進センター長・教授
 兼任:大学院教育学研究科教授(高等教育開発論講座)
 中央教育審議会大学分科会質保証システム部会 臨時委員

 カーネギー財団知識メディア研究所 所長、東京大学大学院 情報学環 客員教授、 マサチューセッツ工科大学 教育イノベーション・テクノロジー局シニア・ストラテジスト等を

 歴任。共編著書に『ウェブで学ぶオープンエデュケーションと知の革命』(共著、筑摩書 房)、「Opening Up Education」(MIT出版)等。

 

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※講演日:2021年7月21日(金)

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