使い慣れた manaba で対面授業と同様の授業を
私は2019年度より、教育開発支援センター長として、学内でFDを担当しています。他の大学と同じく、本校でも2020年4月から全面的なオンライン授業を開始しました。LMSとしては manaba 、配信はzoomを使って実施しました。
同志社女子大学 様
同志社女子大学
若本 夏美 先生
2020年9月4日(金)に実施した第4回「私の遠隔授業」オンラインセミナーにおいて、遠隔授業の方法についてお話いただきました。
後半には京都大学の飯吉透先生によるインタビューも実施しております。
最下部に動画とPDFデータのダウンロードリンクもございますので
あわせてご覧ください。
私は2019年度より、教育開発支援センター長として、学内でFDを担当しています。他の大学と同じく、本校でも2020年4月から全面的なオンライン授業を開始しました。LMSとしては manaba 、配信はzoomを使って実施しました。
本学では2016年度に manaba を導入し、これまでも資料の配布やディスカッションに活用しており、教員も比較的慣れていたので、オンライン授業になっても特に問題ありませんでした。逆に、学生が全員PCを使って授業を行うようになったため、資料の配布が楽になったり、出欠確認用に使っていたマークシートの記入が不要になるなど、かえって授業を円滑に進められるようになりました。
では、私が受け持った「外国語教育論1・2」でのオンライン授業についてご紹介いたします。外国語教育論1・2は2回生(2年次)以上、全学科が受講できる授業です。なお、外国語教育論ですが、授業は日本語で行っています。
前半の1は14名、後半の2は12名の学生が受講する小規模な授業です。90分、全30回の授業は、冒頭30分でグループディスカッション、続く55分で講義を行うという形になっています。この授業はオンライン授業を効果的に行うための10のストラテジーに基づいて実施しています。
・ストラテジー1:学生に最初に一声出させる
・ストラテジー2:否定しない・学生に共感的態度を示す
・ストラテジー3:コメントを言う・ただ報告させるだけにしない
・ストラテジー4:モチベーション・ストラテジー
・ストラテジー5:[アナログで]メモを取る
・ストラテジー6:視覚情報をなるべく加える
・ストラテジー7:学生を名前で呼ぶ
・ストラテジー8:相手の言った内容の一部をリピートする[シャドーイング]
・ストラテジー9:精緻化・関連付け
・ストラテジー10:なるべく学生をほめる、ほめるところを探す
共通ストラテジー:学習者中心・理解から参加へ・授業のインパクト(take-home message)
授業前の毎週日曜日にディスカッションで使う新聞記事、事前課題、授業で使うハンドアウトを manaba にアップしておきます。
授業ではまずzoom上でTAが学生の名前を呼び、声で返答させます(ストラテジー1)。
続いて、ランダムに選んだグループに分かれてもらい、リーダーを指名し、事前に出したお題に沿った1名50秒ほどのスモールトークを行ってもらいます。終わったら、全体に戻って、各チームのリーダーから、興味深いトークを一つだけ全体に紹介してもらいます。その際に、私はリーダーの名前を確認しながら「なるほど」と言い(ストラテジー2)、紹介が終わったら簡単なコメントを付け加えます(ストラテジー3)。
また、明るい学習ムードを作り、学修のモチベーションを保てるよう配慮しています(ストラテジー4)。
この際、私はリーダーの名前や報告内容を、ノートに手書きでメモするようにしています。基本的に1回の授業で見開き2ページを使って(ストラテジー5)。
続いて、事前に manaba で配布しておいた新聞記事のディスカッションをグループで行います。この際には、リーダーが指名したセクレタリー(書記)がディスカッション内容を manaba のスレッドにメモを取っていきます。その際、私は各グループを回りながら、コメントして、ディスカッションが盛り上がるようにしています。
ディスカッションが終わったら、リーダーが、スレッドに書かれたメモを元に、全体に対しディスカッションの内容を紹介します(ストラテジー6)。私はノートを取りながらノートを取りながらリーダーの発表を聞き、コメントを述べます。その際に必ず「リーダーの○○さんがおっしゃったように」とリーダーの名前を添えてコメントを言うようにします(ストラテジー7)。
また、コメントの際には学生が言った内容の一部を必ず繰り返して強調するように言います(ストラテジー8)。
ディスカッションと発表が終わったら、講義に入ります。学生には事前に配布した穴埋め式のハンドアウトに書き込んでもらいながら、スライドを使って講義を行っていきます。この講義内容は新聞記事のディスカッション内容にできるだけ関連付けるように心がけます(ストラテジー9)。
講義が終わったら、まとめに入ります。その日の学習内容、キーワード、解決していない問題を確認し、次回の授業を予告したら、最後にその日の授業でよかったところをコメントします(ストラテジー10)。
評価は、 manaba の小テストやレポート機能を使い、小テストのフィードバックも活用しました。小テストはうまくいったと考えています。
このように、10のストラテジーに基づき授業を進めてきましたが、オンラインで距離が離れているからこそ、学生とのコミュニケーションを大切にして、心理的距離を近づけることが大切だと感じました。 また、前半のディスカッションは授業の活性化を図るために対面授業でも行ってきたものですが、冒頭に述べた通り、資料配布や出欠が円滑になったり、誰でもセクレタリーになることができたり、スレッド内容の共有が簡単にできるなど、全体的にオンライン授業によって円滑に進めることができたと思います。
飯吉:オンライン授業を実施してみてどのような点に気付きがありましたか。
若本:教員になって27年経ちますが、経験を積んでくると、授業スタイルを変えるのはなかなか難しいものです。しかし、今回、すべてオンライン授業というまっさらな形でやらざるを得なくなり、かえって「授業の棚卸」ができたことは良かったことだと思います。見直してみると余計なこともあり、それをやめてみたところ、初めてシラバスの計画通りに授業を進めることができました。
飯吉:グループディスカッションの進め方においてどのような工夫をされていますか。
若本:ディスカッションのテーマには新聞記事を使っていますが、何かを論じている記事を選ぶようにしています。またディスカッションのポイントを提示しておくことも大切です。このように、ある程度のコントロールは必要だと思います。
飯吉:ストラテジー6の「視覚情報をなるべく加える」というのは具体的にどのようなことをしているのですか。
若本:グループディスカッションのスレッドを画面で共有しながらディスカッションや発表を行うようにしています。スレッド自体はTAが授業前に用意してくれて、そこにセクレタリーが記入していく形です。
飯吉:ストラテジー7にも「学生を名前で呼ぶ」とありましたが、学生が名前や顔を出すのを嫌がりませんか。
若本:本学は女子大ということもあってか、比較的学生同士、学生と教員の心理的な距離は近いように感じます。また、事前にも告知してあるので、抵抗はあまりありません。心理的な距離を縮める工夫としては、ファーストネームで呼ぶ、というのが工夫している点でしょうか。
顔出しに関しては、原則は顔を出すように言っていますが、女性ということもあり、諸事情で出せない日もあったりします。そういう学生は事前に申告してくるので、授業開始時に「○○さんは、今日はカメラオフで参加します」と伝えておけば、特に問題になるようなことはありませんし、全部の授業で顔出しはいやだ、という学生はいませんでした。
最後に、飯吉先生には2013年に本学に来ていただき、FDの講習会をしていただきました。あの際にお話しいただいたことは大変参考になりました。この場を借りてお礼申し上げたいと思います。
また、英語英文学科の同僚の先生方、教育開発支援センター、そしてTAの協力があってこの成功があったと思います、併せてお礼申し上げます。
なお、私の授業の取り組みについては、私個人のWebサイトにもまとめてあります。お時間があればぜひ覗いてみてください。
http://wakamoto.org/natsumi/
若本 夏美先生
同志社女子大学英語英文学科教授
教育開発支援センター長
京都府綾部市生まれ、京都大学卒業後、公立中学教員、兵庫教育大学修士・トロント大学博士課程修了、専門分野は応用言語学(学習個人差、方略、スタイル)
インタビュアー:飯吉 透先生
京都大学理事補(教育担当)
高等教育研究開発推進センター長・教授
京都大学大学院教育学研究科教授(兼任)
PDFデータは下記よりダウンロードいただけます。
※講演日:2020年9月4日(金)