2019年11月29日(金)に東洋大学にて開催した「 manaba ユーザ会 2019年度」において、 manaba の活用方法についてお話いただきました。
下記にお話の内容をまとめます。
東洋大学 様
manaba ユーザ会 2019年度ご講演 松原 聡 先生
ICTを活用したアクティブ・ラーニングと学修時間の確保
なぜ、アクティブ・ラーニングが必要か
AI・ロボットに職業を奪われる時代
今日は、教育、とりわけ高等教育がICT/AIが普及する時代に直面する問題を考えてみたいと思います。
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文“THE FUTURE OF EMPLOYMENT”(雇用の将来)は、アメリカの702ある職業分類について、今後10~20年先にAI・ロボットに代替される可能性を調べてランキングしたものです。
例えば、電話を使った販売活動、いわゆるテレマーケティングや、時計の修理業、貨物運送業者といった職業は、0.99以上、つまり99%以上の確率で今後無くなると予測しています。逆にセラピストや小学校の教師などは、代替される確率はほぼゼロで、今後も引き続き人間が担っていくだろうと予測しています。
この論文は、普通に勉強をしているようでは、多くの人がAIやロボットに仕事を奪われることを示唆しています。では、どのように学べばいいのでしょうか。
文部科学省も推進する「アクティブ・ラーニング」
その答えについて、文部科学省はこう述べています。
「主体的・対話的で深い学び(「アクティブ・ラーニング」)の視点からの学習過程の改善が必要である」(平成29・30年改訂 学習指導要領より)
「主体的に判断しながら、自分を社会の中でどのように位置付け、社会をどう描くかを考え、他者と一緒に生き、
課題を解決していくための力の育成が社会的な要請」
(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」平成28年12月21日中央教育審議会より)
小・中学校では全国学力・学習状況調査で「活用」に関する問題が出題されることもあり、アクティブ・ラーニングを重視した教育が始まっています。
その一方で、高等学校では、現状の大学入学者選抜が、知識の暗記・再生や暗記した解法パターンの適用の評価に偏りがちであることなどを背景に、
知識伝達型の授業にとどまりがちとなっています。
この状況を変えるため、導入されるのがセンター試験に変わり2021年から実施される予定の共通テストにおける国語・数学の記述式問題の導入です。
また、一部の高校・大学などでは、アクティブ・ラーニングを重視した取り組みが始まっています。以下は取り組みに関する各学校長の発言です。
・立命館慶祥中学校・高等学校 久野信之校長
「アクティブ・ラーニングは小手先の教育ではできません。そのために本校では巨費を投じて『アクティブ・ラーニング』専用の新教育棟を建設します」
・早稲田大学 田中愛治総長
「今までの『正解のある問題を早く解く能力』には限界。これからは『正解のない問題に挑戦し、自分なりの答えを出すたくましい知性』が必要」
このように、アクティブ・ラーニングは時代の要請となっています。しかし、小・中高の40人ほどのクラスは別として、大学の大人数講義で、アクティブ・ラーニングの実現は容易ではありません。
学修時間をどのように確保するか
大学生の学修時間比較
高等教育の抱えるもう一つの問題は、学生の学修時間の確保です。日米の大学生の学修時間を比較すると、総じてアメリカの大学生のほうが長く勉強しています。
1週間で26時間以上勉強する学生は、米9.5%に対し、日2.4%。同じく週16時間~20時間学習する学生は、アメリカでは2割を上回るのに対し、日本では7.3%と1割にも達しません。
国際通用性が問われる日本の大学の学位
日本以外のアジアの学生も「だいたい一日6~8時間です」(インド学生)との回答があり、フィリピンの学生は「フィリピンの大学では“A”を取るのが難しいですが、日本の大学では簡単に取れます」と話しています。
大学の学位は国際的に通用しますが、このような状況では、日本の学位の国際通用性が問われかねません。
したがって、いかに学修時間を確保するのか、がとても重要なことなのです。
事例で見る、大学におけるアクティブ・ラーニングの実施例
さて、ここで、50~100名規模の大学の講義において、アクティブ・ラーニングをどう実施するのか、さらに学修時間をどう確保するのかの実践を
紹介したいと思います。
respon を使って、以下のような大人数でのアクティブ・ラーニングを行う特別講義を実施しました。
特別講義:「大学におけるダイバーシティ」
参加者:学生約80名
※特別講義なので、単位には含まれない
ICTを使った予習時間の確保
予習の指示は manaba のコースニュース機能を使って、受講者全員に通知しました。また、予習に使った書籍は電子書籍のため、図書館に1冊しかなくても、
簡単に閲覧が可能です。
(同時アクセスには制限があるが、学生のアクセス時間がずれれば、多くの学生の閲覧が可能になる)
respon を使った授業
授業内では respon を下記のように利用しました。
・予習の感想をresponで収集・共有
→大人数の考えをリアルタイムで収集・共有が可能
・講義中、 responで収集・集計された意見を見ながら学習をすすめる
→従来ではできなかった、「隣に座っている学生の意見」をお互い知ることができ、それに対して意見を述べることができる
ICTを活用した復習時間の確保
復習には下記のように respon や manaba を活用しました。
・ respon で感想の投稿
→大人数の収集が容易に可能。次回の講義・授業に活用することも容易
・ manaba のコースニュースに当日の資料、講義動画を掲載
→当日参加できなかった人にも講義内容を共有できる
学生の反応
学生からは下記のような反応がありました。
・似たような意見がまとめて表示される機能は、非常に便利だと感じた。また、 自分とは異なる意見、考えに対し、背景の違いなどを考えることができた。
・授業中にスマートフォンを活用して、自分の意見を発信、共有できることは、自分と他者の意見を比較し、検討することが容易にできる手段だと思った。
自分一人で考えていては思い浮かばない意見が多くあり、自分の考えをさらに深めることができた。
このように、学生たちは講義の最中においても、他の学生の意見と自分の意見を比較し、考察を深めることができるなど、まさにアクティブ・ラーニングを実践することができたと考えています。
AIを活用したresponの意見集約
さらにこの特別講義では、 respon で収集した学生たちの意見を、実験中のAIでリアルタイムにクラスタリングし、可視化することも行いまいした。
従来であれば、講義中には学生の投稿順に意見を紹介し、その中で目についたものにコメントをしていました。しかし、テキスト・マイニング技術を使い、同じキーワードを使っている意見をリアルタイムで集計し、可視化しました。
さらに、代表的なコメント(リーダーコメント)や、少数派意見も簡単に取り上げることが可能なので、講義中もそこから意見をピックアップし、ディスカッションを展開させることも行っています。
この機能によって、多くの学生の投稿がその場で集計され、意見の分布も確認でき、より高度なアクティブ・ラーニングが可能となりました。
まとめ
このように、 respon をはじめとするICT技術を活用することで、大人数のアクティブ・ラーニングの実現や学習時間の確保が可能となります。さらにAIの時代だからこそ、AIを活用しない手はありません。 respon とAIの組み合わせによって、AIに負けない人材育成を推進していきたいと考えています。
※respon は(株)レスポンが開発・提供しているサービスです。
※講演日:2019年11月29日(金)